「お前は相変わらず動揺しないな」
私をすっぽりと抱き締めたまま、森川はぼそりと言った。
頭の上から聞こえるその声に、全ての神経が集中していた。
聞き漏らさないように、しっかりと受け止めながら。
「少しくらい、驚けよ」
冷静なフリをしているだけで、心の中は十分過ぎるほど驚いていた。
驚きすぎて、私は動くことさえ出来なかった。
自分の感情が何も湧いてこないまま、ぼんやりとしていることで精一杯だった。
「森川、どうしたの?何か、あったの?」
搾り出した声は、今にも泣き出しそうな声になってしまった。
震える私の声を受け取って腕に力を込めるたび、心臓が掴まれていくようでとても怖かった。
森川の腕の中で、私の抵抗は何も通用しない気がしていた。
「・・・あったよ。だから、慰めてくれよ」
何とか漏らした森川の声が懇願の響きを含んでいて、私は尚更どうすることも出来なくなった。
その大きな背中に手を添えてあげることも、声をかけてあげることも。
今の森川に必要なもの、それが何か分からなかった。
少なくとも、私が背中に回す手の温もりや、森川の言葉に応える声。
そんなものではない、と感じていた。

