森川の足音が響く度、私の心臓の音が大きくなる気がした。
目の前の森川は、今まで見ていた森川ではないような気がして、ただその目から視線を離せずにいた。
目の前で立ち止まる。
二人で向かい合わせになって、狭い棚の隙間に挟まってしまったかのような感覚になった。
久しぶりにきちんと見上げる森川はやっぱり目線が高くて、目の前の同僚がとても大きな人なのだ、と確認する。
私と森川は、もう一メートルくらいの距離しか離れていなかった。
手を伸ばせば触れる距離。
けれど、決して森川が簡単には触れてこないことを知っている。
私達の間に『触れたい』と。
そんな感情が流れていないことを私達自身が良く知っていた。
お互いの気持ちを分かり合える、大切な存在であることは間違いなくとも。
そこに相手を欲する気持ちが湧くことなど、有りはしないとわかっていた。
「森川・・・本当に、どうかした?」
声を発した時、森川が少し震えた。
私の声もなぜか震えてしまった。
抱えていたファイルを棚に並べてしまったので、抱き締めて耐えるものが、今手元にはない。
どうすることも出来ずに、自分の左手を右手で強く掴んでいた。
力の入った自分の腕は、かすかに震えていた。

