黒川の部屋と違ってだだっ広くはないが、洋風な内装の整った部屋。
ベッドにテーブルにテレビと、有るものはまるで一人暮しのそれ。
そして奥まった角にドレッサーを見つけた。

「あれっ意外……パステル系もある」
普段の峯はビビットの色で纏めているはずなのだが。
茉梨亜はピンクのマニキュアを手に取った。

「最初がナチュラル系だったからよ」
「えっそうなの?」
部屋に入った茉梨亜を咎めはせず、峯もドレッサーに並んで化粧品を摘む。

「黒川様が言ったから色々やったわよ。メイドから始まって清純とかアジアンとか」
「……」
引き出しの中にもそれは所狭しと並んでいて。
「ミンナその名残よ」

今の派手な峯からメイドや清純などが想像出来ず、茉梨亜は動かない眉を顰める。
なんとかこじつけようとして当の峯を見上げると、すっぴんの顔と目が合ってますます分からなくなった。

「……どんなだったか見たかったなー」
「今のアンタよりも断然可愛いかったわね~」
「え゛……あ、これキレイ」

見つけたのはアッシュ系のベビーピンクのマニキュア。

「アンタババ色が好きなのぉ?」
「ババ色って……」
峯は口角を上げたまま。
「あげるわよソレ。アタシもう使わないし」
「え?」
「甘すぎない色だし何にでも合うと思うわ」

と添えて、「アンタ引っ掻き回しすぎ」と茉梨亜が乱したドレッサーの上を揃えていく。

「いいの?……ありがとう」

「……」

そう言った茉梨亜の顔は全く笑えていなくて。

ああ今笑顔を意識したんだろうなと、こちらが感じるしかないような。

「……ふーん」

ここへ来た頃は顔がくるくる変わって、激昂したり号泣したり
(黒川様に赤くさせられたりしてたのに)


背後から、そっと茉梨亜の顎に指を添える。

「ねぇ茉梨亜」

茉梨亜が見上げると長身の峯の顔がそこにあった。

「アンタそんなカッコで男の部屋に来て、平気だと思ってるの?」

いつもの峯の声だけど、顔も髪型も違っていて、とても距離が近い。

でも。
いつの間にか表情が消えていた茉梨亜に、動揺は現れなかった。