そう、よく通る低い声で言われた。




すっと目前に彼の逞しい手がのび、掌に優しく握られていたそれを私は凝視する。


それは母の形見のイヤリングだった。


「あ……」

自分の耳に触れると、確かに片方無くしている。
先程腰を抜かした時に外れたのか。


恐る恐る、私は彼の手からイヤリングを受け取ると、彼はふーっと息を吐いた。

そして


「先程は威嚇して済まなかった。ああでもしないと人は容赦無くこの領域に踏み込むからな……」

やれやれと腐葉土の上に腰を下ろした彼の横に、いつの間に追い付いたのかちょこんと小さな影が寄り添う。


「だが私も走って妙に落ち着いた。貴女の様な娘さんに爪を起ててはいけないな」

どこか自嘲気味に笑うその彼を見て、私はついさっきまで恐怖の塊でしかなかった思いを反省する。


……彼らだって必死で生きている。
私を追ってきたのだって、下手をしたら危険な事だったのかもしれないのに。


なのに届けてくれた。


「ありがとう……」


きっとぎこちない顔で言ってしまっただろう。

それでも彼はふ、と笑って、幼いそれを促し森の奥へと消えていった。



Fin