「死因はやはり呼吸困難で間違いありません。器官に大量の唾液を検出しましたので、それが詰まったものと思われます。しかし……」

言葉を止めた捜査員に対し、警部が促す。

「しかし?」

「はぁ、被疑者の体内から毒物は一切検出されませんでした」

警部は思わず目を見開く。

「なんだって?」

「報告は以上です」

意外な結果に、警部は頭を捻った。


「てっきり何らかの毒で呼吸困難になったものと思ったが……おい、被疑者は何か持病でもあったのか?」

「いえ、それはありませんが……」

唾液が器官に入る事はそこまで珍しくはないが、たいてい反動的に咳込んで唾液は排出される。


それが出来なかった……


「咳が出来ない状況……そんな事があるのか?」


「警部!撮影した現場写真、ご覧になります?」

部下が差し出した写真の束を軽く頷き受け取る。

そこに写されていたのは朝日が差し込む現場にギラギラと輝く付けっぱなしの電気、テレビ、そして遺体……

「ん?」

ふと写真をめくっていた警部の手つきが止まった。


「……なぁ、この被疑者、おかしくないか?」

部下は警部の指す写真を覗き込み、そして苦笑する。

「あぁそうなんですよ……ある意味、いい表情でしょう?」

その写真は被疑者の顔が写っていたが、報告の通り口元には口内から溢れた唾液が見てとれる。

だがその表情は、普通死んだ者が浮かべる驚愕や苦悶のそれとは何かが違う……

寧ろ微笑んでいる……どころか笑って、いや語弊があるかもしれないが爆笑している様に見える。


「……なんなんだこれは。いや待て!」

突然警部は顔を上げる。

「おいこのテレビは電源を消す以外触っていないな!」

「は、はい!」

警部は勢いよくテレビの電源を付け、チャンネルの画面表示をさせる。そして夕刊のテレビ欄を広げ、大きく口を開いた。