空は曇天。

 しかし近頃は晴れ、雲、晴れ晴れ雲。
 めっきり雨――いやもう降るなら雪だろうが、そういったものを見ていない。 だか今日ばかりはこの雲行き、雪など降ってくるかもしれないが。

 空を仰いでいた翔太に再び身震いが襲う。 ぼんやりしていたら風邪をひいてしまうかもしれない。
 いかんいかんと頭(かぶり)を振り、また急ぎ足。
 この様な薄着で寒空の下なのだから病を呼ぶのは自業自得だが、それを宮田さん――先程の通いの家政婦だが――に知られれば小馬鹿にされる事間違いなし、仕事にも差し支える事この上ない。
 また嚔。
 「くわばらくわばら」とまじないを唱え、翔太は鼻を啜った。



 その拍子、不意に足元に何かが当たる。 妙に感じて下駄先を見下ろせば、そこには色褪せた独楽が一つ。
 「これは」と呟いて、翔太は独楽を拾い上げた。


 木で出来た一般的な独楽だ。 かつては美しい色と艶だったのだろうそれは、今は紅色(べにいろ)と緑(あお)の線が所々禿げ、元々の木の色が覗いている。
 金属の軸は年代を感じさせるくすみ具合で、親父の時代から遊び使われ続けていたのではなかろうかと思わせた。
 いや、感慨深い。 翔太はしばし独楽を見つめた。


 正月の風物を上げれば独楽の存在は子供達にとって欠かせない。 翔太も幼い頃は近所の馴染みな友人と独楽回しをしてはしゃいだものだ。
 翔太は人より少し独楽回しが得意であった。 それ故か、あの頃は三丁目の鉄平とよく張り合っていた事を思い出す。

 所謂がき大将気質であった鉄平は、翔太に独楽で負かされるのが腑に落ちなかったらしく、何度も勝負を挑んできた。
 翔太も鉄平のその勢いに負けじと気合いを入れて、独楽に縄を掛けたものだ。