部屋にあてがわれた簡易洗面所。

その鏡の前で、白衣を着た一人の男が奮闘していた。


「フン!……フン!!」


「……何やってるの?」

奇妙な掛け声を不審に思い、金髪の男が洗面所を覗き込む。
因みに金髪だが彼は西洋人などではない。


「おぅ……見て分からんか?」

「……鼻毛抜いてる」


半ば呆然としながら、金髪の男は洗面所の前に立つ男の問いに答えた。


「なーんだ、やけに張り切った声出してるから鏡の前で腹筋でもしてるのかと思った」

「なーに言ってんだ、俺様は腹筋なんかしなくてもセクシィなお腹だぜ」

男はそう返しながら尚も正面に映る鼻にあらゆる角度からチェックを入れる。

「そーかなぁ、このお腹じゃ三年後にはすたれたメタボシンドロームだよ」
「ぅお!!いきなりめくるな!!」

思い切り手繰し上げられたYシャツを片手でしまいながら、男はやっと金髪の男を見た。


「なんだよ塔藤!俺ぁ今忙しいんだよ!」
「俺は暇なんだー」
「班長…」
「鼻毛抜いてる班員…」
「……」
「……」


「てか珍しいねー管原が身嗜みを気にしてるなんて」

「棗に鼻毛出てるってぼろくそに言われたからな…」

管原は再び鏡の自分と向かい合う。

「ふーん、髭の事もぼろくそに言われてた気がするけど。やっぱ鼻毛はダメなんだ」

「ダンディズムに響くだろ……フン!…くそ」

なかなか目当ての物が抜けないらしく、管原は顔を歪めた。

「年中芝生の顔もどうかと思うけどねぇ」

塔藤は鼻毛の処理には勤しむものの相変わらずな不精髭が揃う管原の肌を見やる。

「へっ…俺様としちゃあ金髪頭な三十路もどうかと思うがな」

「別にいいじゃない」

「あんまり遊んでるとそろそろ毛根の女神が実家帰るぜ?」
「その言い方親父クサいよ管原」
「うっせ」
「俺ん家は代々女神様とラブラブだから大丈夫〜管原こそ前髪生え際やばいじゃん?」
「まじで?!俺ん家ザビエルのアニキが先祖なんだけど!」
「うそ、なにそれフォローしにくい」

「いや今は前髪より鼻毛だ!!」

「その選択ある意味凄いよ」