「……大山、何、惚れたの?」


今日何度目かのニヤニヤとした顔で、香坂が尋ねてくる。その顔、もう見飽きたって。


「……ああ、そうらしい」


「だよな……って、え?マジか!?」


素直に頷いた俺に、香坂は目を見開いて驚いている。池田も同じく驚いた様子で、口にから揚げを運ぼうとしている途中で完全に箸が止まっている。


もう隠すのが面倒だと思ったから、正直に答えたのに、そんなに驚かなくてもいいじゃないか。


「惚れたというか、もっと知りたいなって思ったくらい。以上、俺の話は終わり。さっさと食って、打ち合わせしようぜ」


何か聞こうと身を乗り出して口を開きかけていた香坂に、これ以上この話に触れないように釘を刺した。というか、強制的に終了させた。


いくら俺が惚れたといっても、彼女の反応を見ている限り俺には脈はなさそうだ。俺らみたいなタイプを嫌煙する雰囲気を醸し出していた。


だったら、これ以上深入りすべきじゃない。


彼女もちで、惚気てばっかりのこいつらには俺の気持ちなんて分からないよな。目の前に座る2人を恨めしく思いながら、じっと軽く睨みつけた。もうこの話は終わりだ。


俺の拒絶の意思が伝わったらしく、それ以上話を聞こうとする事はなかった。


香坂に関しては聞きたくて、からかいたくてうずうずしている感じだったが、何とか我慢できたらしい。


こうやって俺の気持ちを察してくれる辺りが、俺たちの一緒にいて心地よい関係が続いている証だと思う。


毎日一緒にいて、プライベートでもほとんど一緒って中々出来ない関係だと思う。仕事は仕事、プライベートはプライベートとはっきり分けている人が多い気がする。大人になった今だからこそこういう関係はありがたい。