「……はい、どうぞ」


体を硬くしたまま椅子に座っている拓斗君の前に、お茶をそっと置いた。コーヒーにしようかとも思ったけれど、夕食に合わせて緑茶にした。こっちの方がリラクゼーション効果が高そうな気がしたってのも大きな理由だけど。


「すみません、ありがとうございます」


そう言って彼はパッと勢い良くお茶を飲もうとした。


「あっ、まだ……」

「……あっち!!!」


まだ熱いよって言おうとしたけれど、間に合わなかった。今日の拓斗君はやっぱり可笑しいと思う。


少し服が濡れていたから、急いでタオルを取りに行き彼に渡した。


「ごめんね、淹れたて持ってきちゃったから」


私はテーブルを拭きながら、自分を拭いているかれに尋ねた。


「いや、麻里さんは悪くないですよ。慌てちゃった俺が悪いっていうか、ただただ格好悪いというか……」


目の前の拓斗君は分かりやすくシュンとなってしまった。だらんと垂れた耳と尻尾が見えたような気がした。


「そんなことより、大丈夫?やけどとかしてない?」


「はい、それは大丈夫です。心配かけちゃってすみません」


さっきから彼は謝ってばかりで、浮かない顔のまま。本当に……


「何かあったの?今日はいつもと違う気がするんだよね」


彼の様子が気になって聞かずにはいられなかった。本当は無理をしてここに来てくれたんじゃないかって不安になってきた。


「それは……」


口ごもる拓斗君に、募る不安。逃げ出したい気分だ。


けれど、もちろん逃げ出すわけにも行かなくて、ただ彼の次の言葉を待つことにした。拓斗君とはきちんと向き合っていきたいから、無理をさせていたのならそれはそれでちゃんと受け止めなければいけないから。


泳いでいた視線が定まったと思ったら、強い眼差しとばっちりと目が合い、心臓がドクっと跳ねた。


真正面にある整った顔から見つめられ、私は目を逸らせなくなった。


「話しがあるので、聞いてもらえますか?」


初めて見る真剣な顔に、私は頷く事しか出来なかった。そして、話を聞くために、彼の正面へと静かに腰を降ろした。