炊きたてのご飯を装い、温かい料理も、テーブルへと運んだ。


「お待たせしました」


そう告げて、1つずつ拓斗君の前へと並べていく。すると彼は、少し驚いた顔をした。もしかして、苦手だったかな?……不安を覚えた。


「和食苦手だった?」


我慢されるのも、と思いすぐに直接聞くことにした。もし苦手なら、今だったら作り直しもできるから。


不安なまま彼を見ていると、拓斗君を勢い良く首を横に何度も振った。


「……そんなことないです。むしろ好きです。なんて言うか、麻里さんにこういう料理のイメージなくって。どちらかというと、おしゃれな洋食系……オムライスとかパスタとかそういうのイメージしてたから、ちょっと驚いただけです」


少ししどろもどろになりながら、拓斗君はいつもより早口で喋っている。そんなに焦らなくてもいいのにと可笑しくて、嫌いじゃないの言葉にホッとしてつい頬が緩んでしまう。


「個人的には和食の方が好きなんだよね。でも、よかった苦手じゃなくて。嫌いなものとか聞かなかったから……苦手なものあったら教えて、ちゃんと覚えておくから」


「…え?……あっ、いや、特に苦手なものはないです」


先程から拓斗君は挙動不審が続いている。その彼の反応に自分の失言に気づかされた。いかにもまた作ってあげたいという発言をしてしまっていた。図々しいとか思われていないだろうか。


折角距離が縮まったのに、また離れてしまうのが嫌だという想いがついつい言葉に出てしまっていた。


けれど、時間を巻き戻すことは出来ないし、私の発言を無かったことにも出来ない。ここで私まで動揺してしまったら、絶対に空気が悪くなる、気まずくなってしまう。


だから、平静を装って、極力私の意図が伝わらないようにしよう。


「……よかった。冷めないうちに食べよう。少し余分にあるから、足りないときは言ってね」


うまく言えただろうか。少し不安が強くなり、早口になってしまったけれど、思ったよりもスラスラと言葉は出てきてくれた。


「そうですね。では、いただきます」


そっと手を合わせた後に彼は煮物へと箸を伸ばした。


何気ないことだけれど、ちゃんといただきますと言える人っていいと思う。食に携わる仕事をしているせいか、そういった事が気になってしまう。


作った人への感謝じゃなくて、命を頂く食材への感謝の言葉。私は1人での食事でも大切にしているけれど、それを理解してくれる人はあんまりいない。


自然と手を合わせたあたり、今の拓斗君はすごく好印象。こんな些細な事に、なんだかうれしくなった。