坂下は私のスカーフを拾い上げると、階段を上ってくる。



「先程の行為は、余合さんには無理でしょう。

首にリボンでも巻いて、一晩泊まるよう勧める程度で良いかと思われます。

あとは…蒼先生が、何とかするでしょう。」



確かに、相手が蒼なら…それで良いか。



「アトで、リコに言っとく。」



坂下と2人きりになるのは、久しぶりだ。



階段を上りきった坂下は、座り込んでいる私を見つめた。



「それにしても、アンジェには驚かされました。

あなたにかかれば、大抵の男性は陥落できるでしょうね。」



大抵の男?



そんなもの、何の価値もない。



私が落としたいのは、今、目の前にいるヒトだけ…。



壁を背にした坂下は、私にスカーフを差し出した。



それには目もくれず、坂下の顔を見つめる。



「先生は、難攻不落です。」



私はそう言うと、立ち上がった。



「それは、どうでしょうか?

40過ぎのおじさんとはいえ、私も男ですから…。」



そう言うのなら…。



諦めようと、収めようとしていた、恋の炎が燃えさかる。



「じゃあ、堕ちてください。

私と、一緒に…。」



坂下の背中に、手を回す。



壁際にいる坂下に、逃げる術はない。



「アンジェ、それは…。」



坂下は抱いてくれるわけでもなければ、この身体を引き剥がそうとするわけでもない。



なんだか逡巡している様子だったので、私は…。



坂下の唇に、自分の唇を重ねようと…した。