蒼の顔に水でもかけてやろうと思い、ペットボトルを手にしたとき、坂下に手を握られた。



とっさのことだから、坂下は右手で私の手に触れた。



坂下、止めるの?



坂下は私と目を合わせると、はっとした表情をした。



私に対して、右手は使わないことを思い出したのだろう。



「失礼しました。」



小声で呟いて、私から右手を離す。



次の瞬間…



ガツン!



坂下が、蒼のすねに思いっきり蹴りを入れた。



「申し訳ありません。

足を組もうとしたら、当たってしまいました。」



坂下、最高だよ。



ますます惚れた!



痛がる蒼のケータイに、メールが入った。



多分、坂下が送ったものだろう。



メールに目を通した蒼は、坂下を見てから、私に視線を向けた。



「アンジェ、ちょっと…。」



蒼に呼ばれて、デッキに移動する。



「済まなかったな…。」



蒼が私に頭を下げた。



「蒼、もう良いよ。

先生の制裁、思いきり受けたでしょ?」



「まぁな…。」



そう言って蒼は、裾を捲る。



酷い痣になっていた。



坂下、少しやりすぎじゃないか?と思った程だった。



「骨、折られないだけ御の字だな…。」



蒼は苦笑した。