クラスのみんなが、1人ずつ棺の中の坂下に声をかける。



「あんな形だったけど、式で名前呼んでもらえて嬉しかった。」



「ホントは、俺らが先生のとこに行かなきゃいけないのに…。

来てくれて、サンキュー。」



梨香はポケットから何か出すと、坂下の棺に入れていた。



一番最初に駆け寄った私だけど、坂下に声をかけるのは最後にした。



坂下の胸の前に組まれた手を見ると、左手薬指にはお揃いの指輪がはめられたままだった。



てっきり坂下の妹あたりが外しているものだと思っていたから、嬉しかった。



私は、組まれた手に自分の手を重ねる。



「指輪、死守した甲斐あったよ…。」



ぼそっと呟く男の声がしたので顔を上げると、坂下の棺をここまで運んできた人の声だった。



その人は、棺に近づくと



「カズくん、随分若いコ引っ掛けたとは聞いてたけど、高校生は犯罪だろ?」



苦笑しながら言った。



葬儀社の人、坂下の友達なんだ?



医者に葬儀社…もしかしたら、お坊さんの友達までいたりして?



私は坂下の耳元に唇を近づけ、囁いた。



「和さん、愛してるよ…ずっと。

向こうで浮気なんかしたら、許さないから。」



多分、私は死ぬまで坂下だけを愛し続けるんだろう。



私は、坂下の唇に…。



自分の唇を重ねた。



周りのざわめきなんて、構うことなく…。



唇を離した私は呟く。



「やっぱり、冷たいか…。」



バシッ!!



頭に激痛が走った。



「痛っ…!」



頭をさすりながら後ろを向くと、卒業文集を手にした蒼がいた。



そんな分厚いもので、人の頭を叩くか?



「何考えてんだ?校内では控えろ…って、前にも言ったよな?」



蒼は私をひと睨みすると、坂下の方を向いた。



「向こうで読んでください。」



そう言って、卒業文集を棺に納めた。