卒業式が始まった。



入場するときに教員たちが座っている方を見ると、坂下が座るはずだった場所に白い花が置かれていた。



こんなコトするのは蒼くらい…いや、教頭かもしれないな。



うちのクラスの連中は示し合わせたわけでもないのに、花の前で立ち止まると思い思いに一礼する。



こんなコトは式典のシナリオにないから、後で大目玉喰らうのは確実。



どうせ大目玉を喰らうのなら…。



私は立ち止まると、薬指の指輪にキスをした。



できる限り、官能的に…。



坂下、怒るかな?



でもキス魔だから、意外と喜んでいたりして…。



教員たちがざわめく中、花が置かれている席の後ろに座っている蒼は苦笑していた。



証書の授与は、担任に名前を呼ばれたらその場で返事をして立ち上がり、クラス委員が壇上で受け取る。



うちのクラスの番になり、蒼が卓上式のマイクスタンドに向かう。



他のクラス担任は名簿を手にしていたのに、蒼は別のものを手にしているようだ。



卓上に立てかけたものは、礼服を着た坂下の遺影だった。



蒼はICレコーダーをマイクに近づけた。



「坂下HR。」



マイクが拾ったのは、愛しいあの人の声…。



その声を聞いた途端に、涙が溢れた。



順番に呼ばれる中、蒼が私を見て



『どうだ、泣けるだろう?』



って表情をした。



泣ける、なんてもんじゃない…。



涙腺が壊れたんじゃないかっていうくらい、ボロボロと涙が零れる。



「アンジェリーナ・フロックハート」



二度と呼ばれることのない声で名前を呼ばれ、私は式典であることも忘れて泣き続ける。



右隣のコが私を立たせてくれ、左隣のコも立ち上がってから私の腕を取ってくれた。



「着席。」



蒼の指図があるまで、今にも崩れ落ちそうな私を両脇から支えてくれた。