この場に残ったのは、私と蒼だけ。



「お前さ…もうすぐ死ぬって分かってる人間から、そんなもの貰ってツライだけじゃないのか?」



蒼が、ぽつりと呟く。



「確かに、そうかも。

だけど、先生に拒否られてた日々の方がツラかったから…。」



「そっか…。

あのさ、席…戻んないのか?」



今は、送別会の出し物なんて見たい気分じゃない。



「ここにいた方が、余韻に浸れるから。」



「坂下先生なら、学校が終わったら逢えるだろ?

ま、それでも好きな男の側に居たいって気持ちになるのは、分からなくもないけど…。」



「違うわよ、先生のことじゃなくて…。」



蒼が、首を傾げる。



「アンタが弾いてた曲の、余韻…。」



「何、お前ちゃんと聴いてたんだ?

意外だよなー。」



蒼は、すごく嬉しそうにしていた。



「あれ、ホントにいい曲だったよ。

曲名、教えてよ。」



「ツィゴイネルワイゼン。」



蒼はヴァイオリンを構えると、私に聞いた。



「もう1回聴くか?」



私が頷くと、蒼は講堂で弾いた『ツィゴイネルワイゼン』を弾き始めた。