教頭のピアノ伴奏から始まった曲は、少し遅れて蒼のヴァイオリンが響く。



多分、音楽の授業では扱われないようなクラシック曲だろう。



私の知らない曲だった。



蒼が奏でる音色は、私の心を締め付けていった。



坂下不在の受験生クラスを抱えてる蒼に、練習時間なんてあるとは思えない。



この曲は、蒼の十八番なんだと思った。



梨香はお嬢様だから、こういうのを聞き慣れているはず…。



彼女の反応を見ようと隣に視線を移したら、感動しているのか涙を流してた。



ついでに、蒼ファンの理系女子たちも視界に入った。



彼女らはステージに上がった時には「きゃー蒼先生ー!」って目をハートにしながら見てたけど、今はものスゴく退屈そうにしていた。



こんなに素晴らしい音色を耳にして、彼女たちは何も思わないのだろうか?



蒼の、顔だけが好きなの?



蒼はそういうところを分かっていたから、梨香を選んだんだろうと思う。



ゆったりした曲調が5分以上続いた後、いきなりテンポが速く、激しい曲調になった。



しかも、弓で弾くだけでなく、弓を持ったまま弦を弾いたり、ヴァイオリンを持つ左手を使って弦を弾いたりもしていた。



中学の時にプロのオーケストラだかが演奏するのを見せられた記憶があるが、それとは比べものにならないくらい上手かった。



こいつ…ヴァイオリンに関しては、天才なんじゃないか?



イケメン演奏家で売れば食っていけそうな奴なのに、何でこんなトコで地味に教員なんてやってるんだろう?



演奏が終わり、拍手が起こる。