この場に流れた重苦しい空気は、ご飯が出来上がっても拭えなかった。



「頂きます。」
「いただき…マス。」



「……。」



お互いに口を開くことなく、坂下は箸を進め、私はご飯に箸がつけられない。



こんな状態で会話が無くても、坂下は不安にならないのかな?



不安で仕方なかった私は、話しかけてみようと思った。



「あの…。」
「あのっ…!」



「あ…先生、何?」



「アンジェの方から、どうぞ。」



「大したことじゃないから…、先生が先に言って。」



坂下は箸を置いて言った。



「申し訳ありません、もう少し言葉を選ぶべきでした…。」



選ぶ…?



「クラスの皆さん1人1人に、手紙を書いていました。

こうして何も言わずにいるのですから、何一つ残さないで逝くわけにもいかないでしょう?」



だから、遺言なんて…。



「普通に、手紙って言えば良いのに…。」



「そう…ですね。

包丁を落としてしまうほど動揺させてしまって、申し訳なかったと思っています。」



坂下はそう言うと、私の頬を撫でた。



「少し、落ち着いてきましたね。

ところで、アンジェは何を言おうとしていたのですか?」



「ご飯…不味くないかな?って…。」



「美味しいですよ、ただ…。」



「ただ?」



「アンジェが笑いながら箸を進めてくれたら、もっと美味しくいただけるのですが…。」



坂下も、不安になってたのかな?



だけど、上手く笑うなんて難しいよ…。



そう思ってたら、坂下が



「アンジェ、あーんして?」



一口大にしたおかずを、私の口元によこす。



「私、子供じゃないよ?」



「いいじゃないですか、誰も見てはいません。」



坂下が急かすから、言われたとおり食べさせてもらう。



「やっと、笑顔が戻ってきましたね。」



そう言う坂下は、すごく嬉しそうにしてた。