あんな仕打ちを受けても、まだ奥さんを愛しているの?



坂下が、あんな人に心を奪われているなんて…嫌。



写真を持つ手に力が入っていたのか、少し皺になってしまった。



写真をサイドボードに置き、その上に本を重ねる。



「先生、ちょっとでいいから振り向いてよ。

私はあんな思い、させたりしないから…。」



私の呟きなんて、眠っている坂下には届かない。



起きる気配がない坂下を目の当たりにしていると、私の中で欲望が膨らんでいく。



坂下と、キス…したい。



どうせ心は貰えないんだから、せめて唇だけでも…。



あの女の人から、奪ってしまおうか?



いけないことだとは分かっているけど、奥さんに対する宣戦布告の意味も込めて…。



私は坂下の唇に、自分のそれを重ねた。



「ん…。」



坂下がうなるような声をあげたので、私は慌てて唇を離した。



様子を見ると、まだ眠っているようだった。



私は相変わらず眠っている坂下に



「ごめん…。」



そう言って、病室をあとにした。



帰り道、坂下に対する罪悪感だけが心に積もっていった。