「先生がっ、私の目の前で、あんなことするから…。

私の気持ち、知ってるくせにっ!」



周囲に当り散らすものがないので、私は自分の拳を床に打ちつけた。



もう一度打ちつけようとしたら、坂下が私の手首を掴んで止めた。



「痛いでしょう?

当り散らすのでしたら、私にしたらどうですか?」



坂下はそう言うと、私の拳を自分の胸に押し付けた。



坂下を…好きな人を、痛めつけることなんて…。



できるわけないじゃん。



私は拳を解き、坂下から離した。



「あれから1年近く経つのですから、あなたのことだけを想ってくれる人を見つけたらどうですか?」



坂下はそう言うと、窓の外を見る。



1年だろうが、たとえ10年だろうが関係ないよ。



妻子持ちでも、拒否られても、今は…。



「まだ、先生のこと…好きだもん。」



私はそう言うと、坂下の背中に寄り添った。



「若くて綺麗なのに…勿体無いですね。」



外を眺めたまま、坂下がポツリと呟いた。



坂下は、そんな私を振り解きもしないけど、抱きしめてもくれない。



でも、良いの。



私のこと、綺麗って言ってくれたことが嬉しかったから。



窓から入り込んだ風は坂下や私を優しく撫でていき、暗幕の隙間から差し込む光は私たちを暖かく照らしている。



もし、神様がいるのなら…。



今だけ、



このままでいさせてください。