ゆっくり後ろを振り向くと、メガネを外して前髪をおろした坂下の姿が映った。



やっぱり…ね。



私に対して左手を使うのは、坂下しかいないもの。



ドラキュラの扮装をした坂下は、肩にかけたマントで私を包んだ。



坂下が纏っている香水や、私を見つめる瞳…。



今だけでいいから、私だけのものにしたい。



すっかり、ぼうっとなった私は…、坂下の腕に身を預けた。



坂下は、顔を私の首筋に近づけてきた。



坂下にしてみれば、こんなことは演技なんだろうけど、私にとっては…。



首筋にかかる坂下の熱い息に、胸が高鳴った。



コレ、坂下には聞こえてるよね?



ちょっと恥ずかしいな…、なんて思ってると



「貴様、娘に何をする!?」



パパが、坂下につかみかかってきた。



坂下は私から離れると、闇に溶けるようにいなくなってしまった。



まるで、さっきまでのことが幻かと思うほどに…。



パパの、バカーっ!



憤慨していたパパは、お化け屋敷から出ると私に言った。



「さっきのドラキュラ、誰か分かるか?とっちめてやる!」



すっかり機嫌を悪くした私は、ムッとしながら答えた。



「坂下先生。」



「えっ…じゃあ、俺は邪魔したってことか?

…スマンな。」



頭を掻きながら、パパが謝った。



「もう、良いよ…。」



あまりにも申し訳なさそうにしてるから…、許してあげる。