『家族と過ごしたい』



坂下の言葉を聞いたら、すっごく切なくなった。



ホテルのウィンドウから見える坂下の姿を、目で追った。



窓の向こう側にいる坂下は、電話をかけているようだった。



近くで、けたたましい着メロが鳴った。



音の方を振り向くと、一見若そうに見える派手な女性がケータイを手にして話し始めた。



まるで、隣の男性の目を気にするみたいに…。



「行こう、アンジェリーナ。」



パパに促され、歩きだした。



だけど、私はエレベーターに乗り込む前に見てしまった。



ケータイで話す女性の腰に手を回す男性のカップルを、坂下がケータイを手にしたまま目を見開いて見つめている姿を…。



坂下の表情に、絶望感が漂っていたんだ。



レストランで注文を済ませた頃、ロビーで見かけたカップルが、私たちの隣のテーブルについた。



若そうに見えた女性は、よく見ると40代くらいだった。



普段だったら若作りのオバサンなんか気にならないのに、坂下にあんな顔させるから気になって仕方がない。



食後のコーヒーを飲みながら、パパが口を開いた。



「アンジェリーナ、坂下のことだけど…。」



坂下の名前が出た途端、カップルの女性がこっちを向いた。



私も彼女を見ていたから、目が合った。



私はすぐに目を逸らし、パパに聞いた。



「先生が、どうかした?」



「お前が横恋慕するだけの価値あるよ、あの男は…。

卒業するときには、当たって砕けて来い。」



日本に残っても、良いってこと?



だけど…。



「もう砕けちゃったんだよ、パパ…。」