思い返してみれば、昔から安心できる居 場所なんてどこにもなかった。
実の父なんて、私やお母さんの心情に無 関心で、かつ、気分屋な人だった。その 上、神経質で。
そんな父と、楽天的でその場しのぎの発 言を繰り返すお母さんは、まさに水と油 のような関係だった。
たとえば、掃除。
お母さんは片付けるのが苦手だ。ギャン ブル依存症のクセにきれい好きな父は、 それに苛立ち、よく文句を言っていた。
父の機嫌が悪くなると、家の中の空気は 一瞬にしてはりつめる。
たのしみにしてたテレビを見せてもらえ なくなるなんて被害もこうむった。おか げで私は、学校にいてもみんなの話題に ついていけず、「ダサイ」とか「遅れて るよね」と陰口を叩かれるようになっ た。
お母さんは私に、父への不満を漏らし た。
「掃除しなくたって死ぬわけじゃない し、別にいいじゃないね。
普段、私たちのことに無関心なクセに、 文句ばかり。何様よ。
この間だって……」
お母さんのグチは延々続く。無意味に感 じた私は、家庭内の雰囲気が少しでも良 くなるようにと、意見することもあっ た。
「お母さんも、掃除すればいいじゃん。 私も、汚いのは嫌だし……。
そしたら、お父さんも黙るでしょ」
すると、お母さんは小さい子供のように そっぽを向き、
「あっそ。夜空は、お父さんの味方なの ね。もういい!」
と、心底不機嫌になる。謝ったって、無 視される。
正論や建設的な意見や前向きなアドバイ スなんて、お母さんには全く通じない。 私はそれにストレスがたまった。
今になって思い返せば、お母さんの気持 ちが読める。きっと、私に共感してなぐ さめてほしかっただけなんだろう。
でも、小学生や中学生そこそこの娘には 荷が重すぎる役割でしょ。
大人の事情なんか知ったことじゃない。
だんだん、家にいるのが嫌になり、私は お母さんと距離をおくようになった。
学校でも人間関係うんぬんで大変なの に、家に帰ってまで疲れたくないんだ よ。
私にだって、グチを聞いてほしい時があ るんだよ。
母親らしいアドバイスだってほしいし、 困った時は味方になってほしかったんだ よ。


