ケータイ小説『ハルシオンのいらない日常』 著:ヨウ


おそるおそる、リビングの戸口に近付 き、両親の話を盗み聞きした。

二人とも、かなり興奮している。

予想はしてたけど、血のつながらない父 が、お母さんに自分の子を産ませたいと いう願いが、ケンカの発端らしかった。

お母さんは、その話題が出るたび、私の 存在を理由にし、次に、自分の年齢では 出産は無理だと言った。

お母さんの気持ち、男の父には理解でき ないのだろうか。

理解してもなお、自分の子が欲しいと主 張しているのだろうか。

「なんで、夜空なんかを引き取ったん だ!

アイツがいなきゃ、お前は俺の子供を生 んだんだろ!?」

父は、まくし立てるように言った。

「今から、夜空を、前の旦那のとこに返 してこい!

俺たちだけで、ちゃんとした家族を作ろ う!」

「そんなことできないわよ!」

お母さんの言い分はもっともだ。

私の実の父親は、今どこにいるのか分からな い。それに、私だって、今さら元の名字 に戻りたくないし、引っ越しもしたくな い。

義父の怒りには腹が立つけど、自分の子が 欲しいと願う気持ちには、少しだけ同情 する部分もある。だから何を言われて も、なんとか耐えられる。

でも、お母さんの言葉は別。それなの に……。

「夜空は、放っておけばそのうち大学卒 業するじゃない!

就職して、いずれ結婚もしてここを出て いくわよ! そしたら、二人で暮らせる じゃない!」

その場しのぎの言葉だとしても、お母さ んにそんなこと言ってほしくなかった。

結婚どころか、今日、彼氏と別れたんだ よ。

就職なんて、まだ考えてない……。大学 生活は、あと二年ちょっと残って る……。

お母さんは、私に興味なんて無いんだ ね。