昼休み、海君はいつも空を見ていた。
そして、いろんな日常トークをして、私 を明るい気持ちにさせてくれた。
中学2年の春、海君は、中庭に座って青 い空を見上げるとこう言った。
「俺たち人間は、生きてるだけで悩んだ り泣いたり、壁にぶつかったりして、全 てを投げ出したくなることがあるよな。
でも、それって実はすごい幸せなことな んだ。
生まれてすぐに、天に昇る命もある。そ んな中、俺とヨウは出会って、こうして 同じ空を見てる。
生きてる人はみんな、何かをするため に、ここに生かされてるんだと思う」
「何かをするために、私たちの命は与え られた…?」
「そう。たとえば、朝起きて太陽の光を 感じてみたり、将来のために勉強した り、好きな人ができたり。
そういう、なにげないことを体験するだ けでいい。
『ありふれた出来事』って言われている 日常が、呼吸をしてることが、すでに幸 せなんだ。
だから、大丈夫」
海君は私を振り返り、言った。
「俺は、ヨウの苦しみを吸い込む空にな る。
楽しい気持ちにさせてあげたいし、こう やって何度も、同じ空を見たい」
人はみんな違う価値観を持っている。
海君はそれをよく分かっていて、私に、 自分の考えを押し付けてきたりはしな かった。
ただ、まっすぐな目で、こう言ってくれ た。
「俺は、ヨウのことを守る空になる」


