ケータイ小説『ハルシオンのいらない日常』 著:ヨウ


海君と知り合ったのは、中1の夏休み明 けだった。


中学生活最初の夏休み、私の両親はとう とう離婚することになった。覚悟はして いたのに、いざそうなると悲しくて、か なり引きずってしまった。

そのうえ、住み慣れた家を出て、ちょっ と遠くのアパートに引っ越さなければな らない。私は母に引き取られることに なったからである。

中学は今まで通り通えるけど、現実は優 しくない。憂鬱な気持ちになった。


私の実の父親は金遣いが荒く、そのうえ ギャンブル癖の抜けない人だった。母が パートで稼いだわずかなお金も、父のせ いですぐに無くなってしまう。

そのあおりは私にもきていた。必要最低 限の物すら満足に買ってもらえない 日々。次第にそれが『普通のこと』に なっていた。

当時苦痛だったのは、新しい靴下を買っ てもらえないことだった。

中学の授業では、移動教室で上履きを脱 ぐことも多い。そんな中、私は、穴の空 いた靴下で授業を受けていた。周りのコ から笑われて、恥ずかしい思いをする。 それに加え、父親のことでも悪口を言わ れた。

何度体験しても慣れない、嫌な心地。

そのうち私は、クラスや学年から浮いた 存在になり、『雨宮さんって暗いよね』 『父親が変だから当然か~』と、女子か ら陰口を言われるようになった。

男子達からも堂々と『雨宮は一人孤独 ~』『どよ~ん!!(私の雰囲気をおもしろ おかしく表現したらしい)』『不気味な 女は嫌われるよ~』と、からかわれもし た。

そんなこともあって、私は、帰宅部だと いうのに、放課後、わざと教室に残るよ うにしていた。皆と同じ時間に帰りたく なかったから。

秋の風が気持ちよく感じるようになった ある日の放課後、一人教室に残った私に 声をかけてくれたのが、海君だった。

「帰らんのー?もうすぐ暗くなるけど」

「……え、あの……」

最初は、不良の彼がこわくて、うまく答 えられなかったのをよく覚えてる。

海君は、怒るでもなくからかうでもな く、そっけない口調で、

「お前、この間俺んちの向かいのアパー トに越してきたヤツだろ?これ以上帰り 遅くなったら、親、心配するかもよ」

海君は言い、アゴの動きで私を促した。 見た目がひたすらこわい人だなと思っ た。なのに、言うことは優しい。

なぜ彼に声をかけられたのかがよく分か らないまま、私は帰宅の準備をし、彼の 少し後ろを歩いた。