「そっか」
意外にもあっさり引き下がり、海君はう なずく。
「無理言ってごめんな。ヨウって、文章 に対していいもの持ってるから書かずに いるのもったいないと思って。
だからって、ファンなのをいいことにこ ういう気持ち押しつけるの良くないよ な」
「ううん、そんなことはないよ。むし ろ、そう言ってもらえて嬉しいんだ。
でも、やっぱり、自信なんてなくて。私 の書いてきたものなんてありきたりだ し、誰かの見よう見真似みたいな作品ば かりだったし……。発想力とか独自性が ないと、作家としては最悪じゃない?」
「そうかな?」
海君は首に片手を当て、目を閉じる。
「ヨウが小説サイトのこと教えてくれた 時、俺、他の人が書いた物もいくつか読 んでみたんだ。ランキングに載ってる作 品を中心に。
たしか、ヨウもよくランキングに入って たって言ってたよな。
ランキングにある小説は目立つから読者 が増えるし、そこに載るってだけでラン ク外の作品より期待値も上がる。読み手 の目も厳しくなるんだよな。だからこ そ、当然叩かれることもあるし、注目さ れることで他の作者から嫉妬されたりも する。いいことばかりじゃないよな」
「うん……。ランキングに載ってた間 は、読んでくれる人がいて嬉しいって気 分だけではいられなかったな……。ま あ、私は敵意に慣れてるというか鈍い方 だったから、わりと冷静でいられたけ ど」
ははっと軽く笑う私の頭に、海君のあた たかい手がおりてきた。
「酒のせいで覚えてないだろうけど、生 き生きしてたよ。創作の話をしてる時の ヨウは」
「うそ……。自分ではよく分からない」
「そうだろな。酔ってなかったとして も、自分の姿は自分で見れないし。
たださ、ランキングに入るってことは、 読者を引き込む何かがあるってことだ と、俺は思う。だからって、ランク外の 作品がつまらないってわけじゃない。
矛盾したこと言うけど、どの作品も、書 いた人の想いや経験、知識や想像力が詰 まってるから、ランキングで良し悪しを 決めるのも早計な気がするし。
うまく言えないけど、ヨウの作品にはヨ ウらしさが詰まってた。ヨウが生きてき た軌跡(きせき)、とでも言うのか な……。
たとえランキングに入ってなかったとし ても、俺はヨウの作品を好きになってた よ」


