夕食を終えて、二人テレビを見ている と、海君が突然、こんなことを訊(き) いてきた。
「ヨウ、もう、小説書かないの?」
「えっ……」
今の私に、書くことで晴らせる不満なん てない。だって、幸せだから。物語の世 界に浸る必要性がない。
「最近は全然小説サイトにも行ってない し、これからも、書くかどうか分からな い」
「ファン1号の要望が出ても?」
「う――ん……」
それを言われると、弱い。海君は、無名 著者ヨウこと私のファンだと言ってくれ ている。
「私はもともと文才もないし、小説だっ てまともに読んだこともなかったし、プ ロ目指してるわけでもないから文章力な んかゼロで、下手な物しか書けない し……。実際、私の小説読んだ人から酷 評されたこともある。
そんな素人が文章書いてネット上に公開 するなんて、恥知らずと言うか何て言う か、イタイ奴って思われそうで……。ま あ、こんな心配今さら?って感じだけど さ……」
小説を書いてなかった間、色んなことが あった。
海君から気持ちを打ち明けられたり、お 母さんが義父(アイツ)の子を妊娠した り、海君の口から伊織君の話を聞いた り……。
「それだけじゃない。ここ最近色々あっ て、私の中の何かが変わってしまったと いうか……。
小説を書く時に感じてた高揚(こうよ う)感とか、創作にぶつける自分の内な るものとか、そういうものがカラカラに 渇いてしまった気がして……」


