「ただいまー!!」
仕事帰りの海君の声。
私が一人暮らしをするようになってか ら、彼はこうして週に3~4回、家に顔 を出してくれるようになった。
「何か昔を思い出すな」
そう言いながら、夕食の仕度(したく) をしようとする。
「いいよ!海君今まで仕事だったんだ し、私が作るよ」
「えっ、いいの?」
「うん、休んでて」
「じゃあ、お願い。ありがと」
昔と違うのは、二人一緒の空間が昔より 現実味を帯びているというか…生活感が 漂っているということ。それを証拠に、 海君は、自分の給料から二人分の食費を 出してくれている。仕送りがあるからい らないと言ったら、
「男として、そのくらいはさせてよ。何 もしないで彼女のアパート通ってるなん て、ヒモみたいだし」
と、少し膨れていた。
口には出さないけど、酒の席で聞いた私 の元カレ話を気にしているんだと思う。 ミチには、どれだけ貢いだのか分からな いもんね……。
幸せな恋をしていても、こうして時々過 去を思い出して心が陰(かげ)る。
そういう時、海君は私の顔を見て、ただ 静かに頭をなでてくれた。落ち着く。昔 から知っている仲だからか、“初め て”のドキドキ感は薄れつつあるけど、 それに替わる穏やかな心地が、今はあ る。
もう、不安になったり振り回されたり、 イタズラに傷付いたり利用されたり裏切 られたりすることもない。そんな恋が、 ここにはある……。


