ケータイ小説『ハルシオンのいらない日常』 著:ヨウ


「海君と離れて、私はますます自分の扱 い方が分からなくなった。相変わらず友 達もいなかったし、彼氏ができても長続 きしないし……。

『人は生まれた以上幸せになる権利があ る』とかよく言うけど、耳障りなウザい 綺麗事だとしか思えなかったしね……」

自分のことばかり話してごめんね。こん なこと長々言うために来たんじゃなかっ た。

「伊織君に伝えたいことがあるの。

人生って、つらいことと幸せなこと、両 方あるよね。どっちかっていったら思い 通りにならないことの方が多いし、他人 と関わると何かしら精神的負担がある。 それが嫌で、人間に対して諦めの気持ち が湧いて、結果、創作の世界に逃げてし まったこともある。物語のハッピーエン ドは現実にない幸せを感じさせてくれる から、それが全て、そこだけ見ていられ ればいいと思ってたんだ。

でもね、違った。

現実の暮らしは、いいことと悪いことの 両方があってちょうどいいんだと思う。 自分にとって幸せなことばかりの人生 だったら、小さな幸せをありがたく思え ない傲慢(ごうまん)な女になってたと 思うんだ。

もちろん、不幸ばっかでも良くない。で も、つらいことのおかげで、今の幸せを 大切にしようと思える。

幸せと不幸、バランスよく……。それが 大事なのかもって最近は思う。海君のお かげかな……」

私の場合と形は違うけど、伊織君も、家 族のことで長年胸を痛めていたのかな?

「だとしたらやっぱり、伊織君は幸せを つかめるはずだったよ……」

昔、あなたに居なくなれと念を送った私 が、どの口で言うんだって話だけ ど……。

「ごめんなさい。私は最高の自己中で す」

だから、きっと、幸せになります。そし て、一生忘れません。伊織君の人生が途 中で無くなってしまったことを。自分の 汚さを。


海君が背負っていたものを一緒に背負っ ていく。「血のつながった家族」と決別 したからこそ出せた答えかもしれない。