ケータイ小説『ハルシオンのいらない日常』 著:ヨウ


翌月。私はお母さんと義父のいる家を出 て、一人暮らしを始めた。

大学から近い新しいワンルームで、立地 条件も悪くない。スーパー、コンビニ、 ドラッグストア、書店……。暮らしに必 要な施設は全部揃っている。ちょっと歩 けばショッピングモールもあって便利 だ。

ホームシックになる不安とかは特に無 かったけど、「本当に家を出てしまった んだな」と、改めて強く実感した。

どうしてもあの家に居たかったわけじゃ ない。だけど、どうにかして家を出よう と積極的に考えたこともなかった。

日々心をカサつかせる冷えきった親子関 係に不満を持ちつつも、私はお母さんと あたたかい関係になれることを望んでい たんだ、きっと。結局その願いは叶わな かった。だから、こうして切なさに浸っ てしまうだけ……。

これで良かった、と、前向きな気持ちの 方が大きい。それでも、長い間抱えてき たものをすっきり消せるほど、私は器用 になれない。


引っ越しが済み、荷物の整理をし、部屋 が部屋らしく機能してきた頃、私は伊織 君の墓参りに行った。

海君に気持ちを告白されたあの日、改め て連れてきてもらった市外地の墓地。周 辺には建物も少なく人通りもほとんどな い、寂しい場所だ。