《伊織》
たったこれだけ。名字も何もない電話帳 の登録名。
私は、この伊織って人が女の子だと信じ て疑わなかった。
海君と一緒にいる時、《伊織》って人 は、何度か海君のケータイを鳴らした。
海君は、伊織って人のことを「同い年の イトコで、生まれた時から親しくして る。恋愛とかじゃないから安心してほし い」と言っていた。
私も最初はそれを信じていた。海君が浮 気や二股をする人とは思いたくなかった し、信じていたかった。
それに、春からは同じ高校に行くって約 束もした。彼女として、私は自分に自信 を持ちたいと思った。
だけど、度(たび)重なる《伊織》さん からの連絡は、弱くて汚い私の心を、瞬 く間に真っ黒にする。


