「要樹の奴、本当おっかないよなぁ。昔から苦手」
壱さんがようやく龍さんの背中から出てくる。
「姫様、あんな奴気にしないでね!昔からああいう奴なんだ。」
「あ、はい。俺は気にしてませんから」
「やっぱ姫様だぁ!ってか、俺らに敬語はいらないからね!」
「え、でも……」
二人は先輩だし……。
「壱の言うとおりです。佐紀様が敬語を使う必要はありませんよ。」
「……分かった。じゃ俺からも一つお願いしていい?」
「なんでしょうか?」
「姫って呼んだり、名前に様を付けたりしないで欲しいんだ。普通に呼んで」
俺の言葉に龍さんは困惑の色を見せた。
「それは少々難しい頼みですね。」
「どうして?普通に呼んでくれるだけでいいんだ。」
「それが難しいんですよ。」
俺、そんなに難しいお願いなんてしてるかな?
「そういう時は“お願い”じゃなくて、“命令”って言えばいいよ。」
ニコッと笑って壱さんは言った。
「命令?そんな大層なことじゃなくて、単なるお願いなんだけど……」
「俺達は命令として言われなきゃ、その条件を飲むことは出来ないんだ。」
「それってどういう――」
「そのうち分かるよ。」
壱さんは断言して、笑んだ。
まるでそれ以上は何も聞くなと言われているようなプレッシャー。
「……じゃあ、俺を名前で呼べと二人に命令する。」
気乗りしないまま言えば、二人はその場に跪いた。
「「承知致しました。」」
そんでもって頭を下げるもんだから、俺は慌てて二人の頭を上げさせた。


