「あの、本当に意味分からないんですけど…」
「私に見覚えはありませんか?」
「え……すみません、全くありません。」
「そう、ですか。そうですよね。」
それはもう残念そうに目尻を下げるから、すごい罪悪感に襲われる。
「なんか、すみません…」
「いいえ、姫様が謝られる事はありません。私が早まりすぎました。」
生徒は立ち上がり、俺に笑む。
「俺、藤倉 佐紀(フジクラ サキ)って言います。今日入寮してきました。」
「藤倉 佐紀…それが今のお名前なのですね。私は青嶋 龍(アオシマ リュウ)、三年です。龍と呼んでください。」
この人、よく見ると綺麗な人だなぁ。
「あ、龍さん。」
「龍でいいです。何でしょうか?」
いや、さすがに三年生相手に呼び捨てはなぁ…。
俺一年だし…。
「迷惑じゃなければ寮の場所、教えてくれませんか?」
地図が読めなくて、と言うと龍さんはクスクス笑った。
「お安い御用です。行きましょうか。」
歩き出した龍さんの後を追って、俺は桃園学園の門をくぐった。
それが、――物語の幕開け。
巡り巡った時間のお話。


