―危機的状態というのは。
海の様子を見てしまった俺の状態。



ダボダボのTシャツを
パジャマ代わりに着ている海。
―ってか、元は俺のなんだけど…。
そんな身体に合っていない服。
首もとは大きく開き、
綺麗な鎖骨が見えている。
裾は捲れ上がっていて、へそが見え、
見せつけるかのように
くびれと細い腰が目に入る。



そして、安心しきったかのような
安堵の笑み。
綺麗な形のいい
ピンクのぷるるんとした唇と
しみ一つなく、真っ白な肌。
長い睫毛。
端正な顔立ち。
何もかもが無防備で。
全てが俺を誘惑する。



―キスしたその後も
俺はその誘惑に悩まされた。



「………はぁ…。
ったく、俺の気持ちも知らないで…。」



深く息を吐くと少々、
冷静さを保つことができた。



―それでも、海に触れたくて。



頬を撫でながら呟いた。



「…何時まで寝てんだよ?」



―そういうと海は瞳を
ゆっくりと開けていく。



「んっ…。」



完全に瞳が開くと突然すぎたからか、
海は奇声を上げた。



「うぇっ!??」



「もう少し、
色っぽい声、出せないわけ?」



そんなふうに茶化さないと
今の俺は我慢できない…。



「蒼……………。」



そんな俺を追い立てるかのように、
海はその綺麗で誘惑の唇で
俺の名前を呟いた。



「ただいま。」



―自然と溢れる笑顔。



そんな俺の満面の笑みを
見せてしまった直後。



ぎゅっ。



「………っ………。」



―いきなりの海からの抱擁。
俺から抱き締めることがあっても、
海から抱き付くことはなく、
完全に動揺してしまい、息を詰まらせた。



「お願い、ぎゅってして…?」



―そんな言葉にハッと我に還る。



一晩、俺がいなかったことに、
海は不安を抱いていたんだ。
精神的にも身体的にも不安なんだ。



そう思うといたたまれなくなって、
俺は片手で海の頭を撫で、
もう片方の手で強く、優しく、抱き締めた。



俺は海を守りたい。
心も身体も。
何があっても、守り抜く。



そう、決心したんだ。



―こうして、俺は夜勤の疲れからか、
海を抱き締めたまま眠りに就いてしまい、
彼女が俺の頬にキスしていただなんて、
全く知らないまま深い眠りに
入り込んでしまった。