「お邪魔しまーす。おお、やっぱ綺麗なお家だな」



 和哉は一回わたしの家に来たことがある。だから、わたしの部屋を知っているはずだ。



「…やっぱ女子の部屋に入るのは緊張するな」



「何言ってんの。姉弟じゃない」



 わたしは和哉に紅茶を出した。



「ちょっと待っててね」



 わたしはそう言って、勉強机の引き出しの奥の方からあるものを取り出した。



「はい、これ」



 そう言ってわたしが差し出したものは、チョコレートだった。



「この前『Stripe』で、宮崎先輩への『ゆずマドレーヌ』と一緒に買ったの」



 そして、息を吸って、続ける。



「一ヶ月遅れの、バレンタイン。」


 
 和哉は、壁にかかったカレンダーに目をやる。今日は、3月14日だーーー。



「とにかく好きなの!わかったね!」



 わたしはわけのわからないことを呟いて、そっぽを向いた。


 和哉が、口を開いた。



「ありがとう。俺の方が好きだから。」


 
 そう言って、ニコッと笑った。



 わたしは、和哉の方を見た。


 芽衣と出会えて良かった。宮崎先輩と出会えてよかった。母さんと出会えてよかった。そして、和哉と出会えて良かったーーー。



 わたしたちは、顔を見合わせて、笑った。



【Fin】