キミさえいれば

「先輩……」


「ん?」


「お願いがあるんです……」


「どうした?」


凛が俺に頼みごとをするなんて、ものすごく珍しい。


多分、初めてなんじゃないかな。


「私を抱いてくれませんか……?」


「え……?」


今、なんて言った?


「さっき思ったんです。

私、先輩じゃなきゃ絶対イヤだって。

お願い、先輩。

さっきの怖かった記憶を消して欲しいんです……」


「凛……」


「ダメ……ですか?」


ダメだなんて、そんな……。


俺だって、いつかは凛とそうなりたいと思ってた。


なのにその前に、凛を誰かに奪われるなんて絶対イヤだ。


そんなの耐えられない。


「凛、待ってて。

俺、練習で汗かいてるから。

俺もシャワー浴びてくる」


「先輩……」


俺は立ち上がると、凛の家の風呂場へと向かった。


中に入ると、部屋同様古い造りではあったけど、やっぱり小綺麗にしてあった。


俺はシャワーを浴びながら、内心複雑な気持ちがしていた。


もちろん俺だって男だし、凛の方からそうしたいって言われたら、こんなに嬉しいことはないけれど。


でも、前から感じていた。


凛が純粋だからだろうか?


あの澄んだ瞳を見ていると、手を出してはいけない。


汚してはいけない。


ずっと。


そんな気がしていたんだ……。