キミさえいれば





「凛、まだ終わらないの?」


「あー、うん。

これだけは今日中にやっておかないと。

美咲、先に帰ってていいよ。

もうすぐ塾の時間でしょ?」


「うん、実はそうなんだ。

ごめんね。

じゃあ先に帰るね。また明日」


「うん、またね」


美咲は手を振ると、生徒会室を出て行ってしまった。


一人になった生徒会室は、怖いくらいに静かで。


なんだか落ち着かないけれど、私は必死に仕事に励んだ。


そして30分が過ぎた頃、カチャンと生徒会室の扉が開いた。


「あれ? 白石まだ帰ってなかったの?」


「先輩」


うそ……。


黒崎先輩、まだ学校に残ってたんだ。


「これが終わったら、すぐに帰ります」


今日私は、一度も先輩の顔を真っ直ぐ見れていない。


先輩と綾香さんのキスを見てしまったからかもしれない。


「俺も、これだけ仕上げないといけないんだ」


そう言っていつもの席に座る先輩。


座るとすぐに、書類に何かを書き始めた。


静かな生徒会室に、紙に字を書く音だけが響き渡る。

 
私はチラリと横目で先輩を盗み見た。


眼鏡の奥に見える長いまつ毛、高い鼻筋、綺麗な形の唇。


シャープな顎のラインも、鍛え抜かれた体つきも、全てが完璧なまでに美しい。


たもっちゃんを最後に見たのは、たもっちゃんが中一の時。


たもっちゃんは女の子みたいに可愛いらしい顔だったけど、今はどんな顔になっているのかな。


先輩みたいに、カッコ良くなってるかな。


つい、そんなことを考えてしまう。