「そう…」


母さんは寂しそうにテーブルに視線を落とした。


「そうよね。

凛はお父さんの事も、お兄ちゃんの事も大好きだったものね……」


母さんの少しか細い声に、私はコクンと頷いた。


「凛の親権を奪われるくらいなら、引越しを取りやめる方がまだマシね」


「え……?」


お母さんの言った言葉を、頭の中でリピートする。


引越しを取りやめるって、今確かに言ったよね……?


「凛……。

凛はね、母さんの全てなの。

母さんは、凛が何よりも大切だから……」


「母さん……」


わかってる。


母さんが全てを犠牲にして、私を必死で育ててくれたこと。


だから出来れば私も、母さんのそばを離れたくはない。


「ねぇ、凛。

ひとつだけ約束してくれる?」


「何を?」


母さんは一度天井を見て息を吸うと、はぁと息を吐き、私を真っ直ぐに見つめて来た。


「保とは、ちゃんと兄妹として接してくれる?」


「え……?」


ドクンと心臓が大きく波打った。


鼓動はどんどん速くなり、私の視界まで揺らしてしまう。


「保が凛を女の子として好きだと言っても、絶対に応じてはダメよ」


「母さん……」