キミさえいれば

「お父さん。ちょっと聞いて欲しい事があるの」


少し沈黙があったので、私はその隙に話を切り出した。


「なんだい?」


私は一度深呼吸すると、お父さんの顔を真剣に見つめた。


「前に病院でも話したけど、お母さんがおばあちゃんの家に引っ越すって言ってるの。

私、イヤなの。

お父さんとたもっちゃんと、もう二度と離れたくない。

お父さん、どうしたらいい?

お父さんの知恵を貸して欲しいの」


言いながら、目に涙が溜まってしまう。


それを見た先輩が、そっとティッシュを差し出してくれた。


「もう引越しは確定なの?」


「うん。年内には引っ越す予定なの……」


言葉にした途端、不安が一気に押し寄せて来た。


ぎゅっとスカートを握りしめる。


震える背中に、先輩がそっと手を置いてくれた。


「父さん。どうにか凛が引っ越さなくて済む方法はないかな」


先輩の言葉に、うーんと考え込むお父さん。


「まぁ、彼女が心配してるのは、保の事だからね。

その心配さえないとわかれば、引っ越す必要はないと思うんだけど」


先輩のこと、か……。


お母さんが心配しているのは、私とたもっちゃんに間違いが起こることなんだよね。


もう既にそうなっているのに、心配はいらないなんて、そんな嘘がつけるんだろうか。