「先輩、どうしよう……」


思わずぎゅっと、先輩のブレザーにしがみつく。


「どうしたの?」


首を傾けて、心配そうに私の顔を覗き込む先輩を私は見上げた。


「私……、年内で引っ越す事になったの」


「えぇっ?」


先輩が大きな目をさらに開いた。


「先輩が先輩の頃の記憶を失って、私すごく悲しかったの。

もう先輩に会えないんだと思って。

だから私、引越しを承諾しちゃったの……」


私ったらバカだ。


自分がつらいからって、現実から逃げようとしていた。


せっかく先輩が戻って来たのに。


一体どうしたらいいの?


「凛、落ち着こう。

とりあえずさ。

父さんに相談してみない……?」


「え……?」


お父さん?


「父さんなら、何か良い知恵をくれるかもしれない。

今日、俺の家においで」


そう言って私の髪を優しく撫でてくれる先輩。


押し寄せる不安の中、私はこくんと頷いた。