幾重にも重ねられていく、ギトギトとした深紅色のグロス。


指先に施されたジェルネイルが、蛍光灯の光に反射して眩しい。


シュッと香水をひと吹きすれば、6畳しかないこの部屋に、甘い香りが瞬く間に広がっていく。


やけに女を主張したその香りに、私は少しむせ返ってしまった。


こぼれそうな胸元をちらつかせて、彼女は次第に夜の女になっていく。


(りん)、ごめん。

寝坊しちゃったから、晩御飯は……」


「いい。適当に作るから」


小さなテレビから、夕方のニュースが流れている。


暗いニュースばかりで観る気が失せて、電源を落とした。


「じゃあ、母さん行ってくるわね」


「行ってらっしゃい」


私にはとても履けそうもない高いヒールのパンプスを履くと、彼女は振り返ることもなく部屋を出て行った。


その途端、周囲が一気に静寂に包まれる。


今夜も私はひとり、2DKの古いアパートで眠る。




世界にたった一人の、大切な人を思いながら……。