キミさえいれば

「……んっ。凛ったらー」


「えっ?」


「え?じゃないよ。さっきからずっと呼んでるのに」


私の席の前に座っている美咲が、珍しく膨れっ面を見せる。


「ごめ、ん。ボーッとしてた」


「もうっ。11月に入ってからずっとそんな調子だよね。

黒崎先輩、早く学校に来ないかしら。

じゃないと凛が、凛らしくなくて困っちゃう」


そう言って美咲が、ふぅとため息をついた。


「……ごめんね」


「でもまぁ、無理もないわよね。

彼氏が事故に遭ったんだもの。
心配だよね」


たもっちゃんはあれからどうしているのだろう。


中2だと思ってた自分が、いきなり高3になるってどんな感じなんだろう。


きっと、想像以上に大変なことなのかもしれない。


出来ればそばで支えたいけれど、たもっちゃんに会うのがなんだか怖い。


姿は先輩なのに中身が違うなんて、そんなたもっちゃんを前にして、どう接していいかわからない。


母さんはあれから引越しの準備をするため、色々と忙しそうだ。


引っ越す事が決まっても、いきなりはやっぱり難しくて、とりあえず年内まではこの学校に通う事になった。


だけど私は、引っ越す事をなかなか美咲に切り出せずにいた。