緋色の魅薬

適当に着替え、顔を洗い、春樹は忙しそうに駆け回る。

そして電話がかかってきてから十数分後、春樹は玄関のドアノブに手をかけていた。


「鍵閉めていくから大丈夫だよな?しっかり留守番してんだぞ?」


そう言って、春樹は家を出た。

明は玄関で、呆然と立ち尽くしている。

鍵が差し込まれる音、鍵が回り、施錠される音がやけに響く。


明は電話を受けてからの事を、頭の中で整理しようとしていた。


電話は恐らく、裏での関係がある人物。

内容は薬物についての何らかの事。

何かがあって、急に春樹が呼び出されたんだろう。


おぼつかない足取りでリビングに行くと、再び電話が唸った。


明は固まったまま、受話器を取らないでいる。

電話の着信音が、明一人しかいないリビングに響く。

するとちょうど八コール目で留守電の音声が流れた。


『ご用のある方はピーッと言う音の後にメッセージを残してください』


そして、高い、留守電の音がする。

明は、脈拍が早くなるのを感じた。


「……私だ」


低い、いかつい男性の声に、明は唾を飲み込んだ。