緋色の魅薬

無表情のまま、明はその傷をしげしげと見つめていた。

そして、ゆっくりと袖を元通りにする。


「……今日もしたのかな」

ポツリと呟いて、明はランドセルを開けた。

中には五年生の教科書が入っている。

明は青いクリアファイルを取り出した。


今日配られたプリントを眺めてみる。

中には、県から配布されているカラーのプリントがあった。


『ダメ。ゼッタイ。』


ドラッグ乱用防止のプリント。
中には覚醒剤やヘロインなどの写真がある。


春樹は、数ヶ月前から薬物乱用を繰り返している。

それは娘である明も知っていた。


乱用しているのは『ガム』と呼ばれている。

明が、春樹の電話中に聞いた薬物の名前だ。


「『ガム』だから……アヘン型ってのかなぁ」


そう呟き、ベッドの上で寝っ転がっていると、不意に廊下から足音が聞こえてきた。

そしてほどなくしてピタリと止まった。

二回、軽いノックの音がする。


「明、いい?」


声の主は春樹だ。
明は慌ててプリントを丸め、枕の下に隠した。