「今井、英語の訳やった?」
やべ、忘れてた。
"そういえばあのマスク女にも聞かれてたな"
そんなことを考えてみたけど、
"なんでアイツが浮かんだんだ"
そう思って頭の中から消し去った。
「班で和訳考えて発表して〜!」
英語教諭の声がクラスに響き渡り、みんなが一斉に班の体形を作り出した。
「あむっち〜!」
マスク女を呼ぶ声がして、自分とあの女が同じ班だったことにふと気が付いた。
「なんだよ〜」
ヘラヘラ笑って応えるあの女の目には、笑みが無かった。
"やっぱ気になる"
あの女自体が気になるのではなく、あの女の言動や仕草。
普通の女とは違うというか…。
まあまず、普通の女がわからないのだけれど。
「今井はどんな訳?」
「…」
「コイツ忘れたよ」
青山のフォローに心の中で少し感謝して、あの女の方に目をやった。
「…」
俺のことを見つめていたみたいで、すぐに目が合った。
とは言ってもすぐに逸らされてしまったのだが。
何故か少しだけ傷付いた俺の心は、最近どうもおかしいようだ。





「いただきま〜す」
給食の時間が始まる合図と同時に、あの女の机に大量の焼き魚があったのに気付いた。
「あむっちそんなに食べんの?!」
「え、うん?美味しいじゃん」
そんな会話を繰り広げている目の前の女達を尻目に、青山が話しかけてきた。
「今井焼き魚いる?」
あのマスク女に視線を向け、
「…あっちにあげなよ」
「あ、おう。…日比野食べる?」
「あー、うん!いる!食べれるかわかんないけど!」
「残すなよ」
「えー」
仲良さそうに話す二人を見て、何故か胸が痛んだ。

「ごちそうさまでした〜」
給食の時間が終わり、みんなが呑気に片付けを始める中
あの女は黙々と焼き魚を食べ続けていた。
「…」
もう既に三皿平らげている女は、残りひとつの焼き魚にも手をつけようとしていて、
"よく食うな"
なんて思い心の中で微笑んだ。
俺がお前にあげたようなもんだ。
ありがとうって、感謝しろよ。