「ねぇ、」



「ん?」




振り向いた俺に、早紀はそっと身体を寄せ…首に腕を回してきた。…グッと距離が近くなる。




「キス、して。」



「……」




今までの俺達なら、このまま俺は自然とキスをして…




「ごめん…。」




俺は早紀の肩を掴むと、そっと押し返した。




「しないと思った。」



「え?」




俺から離れてソファーに座り直した早紀は、フッと呆れたように小さく笑った。


コーヒーカップを手に取ると、一口飲んでから俺を横目で見た。




「あの時はついカッとなって怒っちゃったけど…あれから、考えたら気づいちゃったのよ。
私、誠二がいなくても全然やっていける。」




俺は何も言えずにいた。




「何て言うの?その、ただパートナー?恋人?そういう存在が私にはいるって安心してたかったんだと思うのよ。もしかしたら、相手なんて誰でも良かったのかも。」



「おいおい、それは俺に失礼じゃないか?」




俺がそうツッコミを入れると、早紀は意地悪そうに笑って、




「フフッ、ウソよ。
誠二の顔がタイプだったから♪」



「お前って本当、そういうとこ正直だよな。」



「だから。」




不意に優しげな表情で俺を見つめた早紀。




「誠二は、あの子の隣にいてあげなさいよ。」




「早紀…」



「悔しいけど、あの子…私より誠二のこと、
好きみたいだから。」




何だよ、急に素直になるなよ。
お前らしくないし。
いつもみたいに上から目線にしとけよ。




「あんまり素直になるなよ、お前らしくない。
珍しく可愛く見えるぞ?」



「ちょっと、珍しくって何よ~。」



「あはは。」



「私だって、
いつも意地張ってる訳じゃないわよっ。」