俺は残業しながら、頭では昨日のことを考えていた。



昨日のその時まで、全然気づいていなかった。



あの子の俺に対する気持ち。


どれだけ俺はあの子を傷つけたか。


どんな思いであの子が俺に接してたのか。



よく早紀に鈍感だと言われていた俺。
どこが?なんて思ってたけど、こういう事だったんだな。




「はぁ、俺…最悪だ。」




情けなくて、ため息しか出ない。


今日の朝だって、あの子にあんな強がった笑顔をさせてしまった。




でも、正直俺は戸惑ってる。


昨日の今日まで妹のように見ていた子に、


あんな真剣な告白をされて…


あんな女の表情を初めて見せられて…


頬を打たれても、負けずに俺のことを一番に考えてくれているところを見せられて…




早紀からは感じられない感情があった。



これから俺はどうする?



いや、どうするも何も…俺は早紀と…



俺は、これからずっと早紀と一緒にいるのか…




それでいいのか?



じゃあ、あの子は誰が守る?




考え出すと、キーボードを打っていた手はいつの間にか止まっていた。




すると、そんな時だった。




ーーーーートゥルルルルル……



内線が鳴る。




「はい。企画マーケティング部…」



「あ、佑月くん?」



「え、あ、はい。」




受話器をとった俺は、突然名指しで呼ばれビックリして戸惑う。



というか、この声って…




「専務の塚本だが…。」



「あ、お疲れ様です。」




やっぱりだ。


女子社員の誰もが酔いしれると噂のこの甘く優しい声…社長の息子さんで、この会社の専務の塚本孝幸さん。




社長秘書の早紀との関係もあり、何度か話をしたことはあるけどそれでも近寄りがたい上層部のお方だ。




そんな塚本専務が何で…




「遅くまで仕事をさせてしまって悪いな。」



「いえ、そんな。
自分の仕事の要領が悪いだけです。」



「そんなことはないよ。
君の仕事ぶりなは本当に感謝してるよ。
この前の地中海フェアの企画、すごく好評だったよ。」




あぁ、この人は本当に下の社員達を見てくれてるんだな。



俺みたいな下っぱの企画まで把握してるなんて…ちょっと予想外だった。




「それで…悪いんだけど、今から専務室まで来てくれないか。大事な話があるんだ。」



「え…は、はいっ、すぐに伺います。」




専務室へ呼び出し。



俺は電話を切るとすぐに部署を飛びだし、エレベーターへ走った。



十数階にある専務室へと上昇するエレベーターの中で、俺は最悪な状況しか頭に浮かばなかった。




俺に関わってきた仕事関係の女性達は皆、自分の意思とは無関係にこの会社を去っていった。



そこには必ず早紀の存在があった。



遂に、俺か…