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「そうか、えみの奴…大変だったな。」




「うん…。」





私と拓さんは、お客さんの空いた時間を見計らって今日の朝のことを話していた。



そして、何故えみが今いないかと言いますと…




「え!高原さんが、熱!?」




と、『すいーと』に来て早々に高原さんが体調を崩してお休みという事態に遭遇して、気を利かせた拓さんがえみを高原さんのお見舞いがてらの看病を頼んだ…というような訳。




というわけで、
私ひとり拓さんのお店のお手伝い。


よく忙しい時、ちょこちょこお手伝いしてたから慣れてるんだ。




「で、そういうお前はどうなってんの。」



「それ、今聞く?」



「おう。」



「うん。あのね、実は昨日…」




テーブルを丁寧に拭きながら、私は昨日の出来事を拓さんに話した。




「何だ、そのドラマ的な修羅場は。
はぁ~現実に本当にあるんだな~。」



「感心しないでよー。
ほんとに怖かったんだからね。」



「はは。そりゃ、あの彼女さんだったら相当な迫力だったろうな。」



「私、生まれて初めてビンタされた。」




昨日早紀さんに叩かれた頬を触りながら、どこか面白そうな拓さんを軽く睨んだ。



全く、拓さんはいつもそう。
人は真剣に悩んでたり落ち込んでたりするのに、この人はどこか楽しそうというか、ふざけてるというか。



そんな風に心のなかで愚痴っていると、拓さんは予想外なことを口にした。





「でも、鈴。」



「ん?」



「お前は叩かれて痛かっただろうけど、その痛みはお前だけじゃないからな?」




どういうこと?




「心の痛みってやつは、彼女さんも一緒だ。
だってそうだろ?仮にも、誠二と彼女さんは恋人同士だ。その彼氏が他の女と…ってのを目の前で見たんだ。いくら強がったって…なぁ?」




“そこは分かるだろ?”と続けた拓さんは、私をチラッと見てまた洗った皿を拭き始めた。




私は何も言えないまま、拓さんの手元をボーッと眺めて考えていた。




私、バカだ。それに子どもすぎる。