「鈴ちゃんが悪い男に捕まったりしたら、
俺、心配だし。」
そんな優しいこと言わないでよ。
「無理やりキスしたなんて言われたら、あの彼氏はやめろって言っちゃいそうだったよ。」
言ってよ、誠二くん。
彼氏なんか作るなって。
俺のこと、好きなんだろ?って。
気づいてよ、誠二くん。
そんな叶いもしないことを心の中で喋りかけてみた。
「私、先輩とは別れたんだ。」
「え?」
あっさりとした私の発言に、今度は誠二くんが驚いたように私を見た。
目が合うと、私は小さく笑った。
「別れた?」
もう一度聞かれた私は、頷く。
「もしかして、俺が余計なこと言ったから…」
「ううん、違うよ。ちゃんと話したの。
話して、お別れしたの。」
「そっか。ごめん、変なこと聞いて。」
誠二くんは、それだけ言うとまた歌詞カードへ視線を落とした。
あーあ、この沈黙やだな。
「誠二くん、
私ね、先輩とキスなんてしてないんだ。」
突然のカミングアウトに誠二くんは驚いて、再び私の顔を見た。
そうだよね、びっくりするよね。
いきなりこんなこと言い出すんだもん。
でも、聞いて?
「実を言うと…
ファーストキスも…まだなんだ。
遅いよね。」
ヘヘッて笑うと、誠二くんは私の頭を優しくぽんぽんとした。
いつものヤツだ。
「遅くないよ。
大事なもんは焦っちゃダメだから。」
誠二くんらしい。
でも、違うんだ。
「ファーストキスはね、本当に大好きな人にあげるって、決めてるから。」
ファーストキス、持て余してるんだよ?
本当に大好きな人にあげられないから。
「そっか。鈴ちゃんらしくて可愛いな。」
ほら。またそうやって優しく笑ってぽんぽんってする。