できるだけ静かに鍵を回したはずなのに、ドアを開けるとドタバタと諒哉が走ってきた。
「ちょっと、下の階の人に迷惑!」
慌てて止まると、冗談のような忍び足で優愛の前まで来た。
「うん。お帰り。」
諒哉の顔はさっきまで思い出していた頃と同じように赤かった。
「た、ただいま…。」
優愛の言葉に少し安心したように頷き、部屋の中へさっさと戻って行った。ただ、リビングではなくキッチンに向かう諒哉。疑問を感じながら優愛も後に続く。するとキッチンの手前、洗面所に見慣れない光景があった。
室内干し用の竿に、家を飛び出す前に洗濯していたはずの物が、きれいに並んでいた。

驚いてキッチンに向かうと、また驚いた。

諒哉がトマトソースのパスタが盛り付けられた皿を二つ運んでいた。
「腹へったから、飯にしよう。」
今ウチには出来合いのパスタソースはなかったはず。
「これ、作ったの?」
「まぁ、適当にだけど。それより、食い終わったら話があるから。」

優愛はその一言で一気に緊張した。